認知症者とマイナンバーについてコラム

介護事業所は利用者に送られる通知カードに関しどのように関わるべきか

当ページを参照にあたり

※以下の情報は、全て弁護士外岡潤が独自の調査に基づき整理・考案した平成27年9月の本コラム執筆時点での方法論であり、以後関係機関等によるアナウンスや法改正、ガイドライン等により改訂される可能性があります。
同じく以下の情報は、外岡が信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。
また当ホームページ中に掲載した資料を使用した場合に生じた損失については一切の責任を負いかねます。

介護事業所とマイナンバー

平成27年10月から、いよいよマイナンバー制度が始まります。これは、全国民一人ひとりに異なる12桁のナンバー(マイナンバー)を付与することで、個々人の識別や情報の整理・把握をしやすくし、主に社会保障および税の手続において利用されるというものです。

10月5日以降、まずマイナンバーが記載された「通知カード」が全ての世帯に簡易書留で郵送されることになりますが、当然その中には0歳児も、認知症のお年寄りも含まれます。未成年であれば親が法定代理人として問題無く代わりに受領・管理できますが、では成年の認知症者や精神障害者等、いわゆる判断能力を有しない人についてはどうなるのでしょうか。

法律上人は、未成年のうちは先に挙げた親の「親権」という法定代理権に服します。成人すると親権は消滅し、いわゆる成年後見人が就任しない限り、例え実の親子であろうと原則として代理人として振る舞うことができなくなってしまいます。子が高齢の親の代理人として行動するためには、その行為の目的ごとに委任状を作成してもらい、任意代理人となる必要があるのです。

問題は、親が認知症等になり委任ができなくなった場合です。後見人をつければ解決しますが、現状、後見制度の普及率は全国的に極めて低く、介護の現場では同居ないし別居の家族が、認知症者の「代理人」或いは単に「家族」という名目で、介護保険サービスの利用契約を結んでいることが大半であるといえるでしょう。

その様に、本来後見人を必要とする状態でありながら後見人が居ない、場合によっては家族すらいないという介護サービスの利用者に対し、マイナンバーの通知カードが直接送られてきたときにどうなるかという問題は、全国民に配布するという建前を選択した以上、国としても当然考えておかなければならないことであるはずです。

外岡が初めてこの問題を意識したのは、ある顧問先の長期療養型病床の事務長から、「住民票を病院に置いている患者については病院宛てにカードが送られることになるが、それを病院が代理受領してよいのか」という質問を受けたことがきっかけでした。そのとおり、介護・医療の現場では施設・病院(以下総称して「施設」といいます)に住民票を移している方が多く、現実に相当数の施設利用者・患者につき施設宛てにカードが送られ、その結果現場の職員・事業所が対応を迫られるということになる訳です。

ところが、外岡がこの問題につき調査を開始し、総務省やマイナンバー・コールセンター等に問い合わせる等したところ、不思議なことにどの部署からも本件に関する明確な回答は得られず、現状「認知症者や障害者に対してどう適用するか(誰が代わりに受け取り、管理するか)」という課題については確たる答えや指針は出されておらず、未だ手つかずのままであるようだということが明らかとなりました。(この点、「やむを得ない理由により住所地においてカードを受け取れない者に対する居所登録」の対応は、対象者が正常な判断力を有することを前提としており、認知症の場合どうするかという問題には触れられていません。)

介護弁護士を標榜する以上、この、地味ですが確実に現場が直面する問題を看過することはできません。その後も関係機関に都度問い合わせ、断片的な情報と法的根拠を統合し、想定される場合分けおよび対処法をまとめたものが下記「対応表」になります。

ご利用者のマイナンバー対応PDF

これは元々、「外岡新聞」という弊事務所の顧問先事業所に9月号として作成したものですが、今回の問題は全国規模で生じる、場合によっては極めて深刻な混乱を引き起こしかねない大きなテーマであるため、特別にホームページ上で一般公開することとしました。どのような立場にある方も、参考資料としてご自由にダウンロード頂いて構いません。またこれらは主に介護・障害サービス事業所向けに書かれたものですが、利用者の家族や後見人の方等が参照されることも勿論問題ありません。

以下、対応表に沿って解説します。

介護事業所とマイナンバー

まずマイナンバーの取扱いについて実務上押さえておくべき事項を確認します。

原則1:通知カードの配布は、市区町村長に最終的な責任がある。

マイナンバーに関するルールは「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」、略して「番号法」に記載されていますが、その第7条1項には、次の様に定められています。

市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)は、住民基本台帳法第三十条の三第二項の規定により住民票に住民票コードを記載したときは、政令で定めるところにより、速やかに、次条第二項の規定により機構から通知された個人番号とすべき番号をその者の個人番号として指定し、その者に対し、当該個人番号を通知カード(氏名、住所、生年月日、性別、個人番号その他総務省令で定める事項が記載されたカードをいう。以下同じ。)により通知しなければならない。

つまり、これから解説する事業所としての対応は、管轄の市町村長、ひいては市町村の役所のマイナンバー担当課に本来指導責任があるのであって、民間の側で一つずつ考え解決していかなければならない問題ではない、ということです。「本来であれば行政が考え指導しなければならないことなのに、その義務を果たしてくれないから仕方なく自分達で考え実行しているのだ」という意識で臨む位がちょうど良いといえるでしょう。分からないことや疑問点があれば都度役所に尋ねるべきですし、そのことに引け目を感じる必要は全くありません。

原則2:他人の番号は見てもいいが、メモする等記録することは許されない。

番号法20条には次の様に定められています。

「何人も、前条各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報(他人の個人番号を含むものに限る。)を収集し、又は保管してはならない。」

そして、特定個人情報保護委員会発出のガイドライン(平成26年12月11日付)によれば、「収集」とは「集める意思を持って自己の占有に置くことを意味し、例えば、人から個人番号を記載したメモを受け取ること、人から聞き取った個人番号をメモすること等、直接取得する場合のほか、電子計算機器等を操作して個人番号を画面上に表示させ、その個人番号を書き取ること、プリントアウトすること等を含む。」とされています(30ページ)。

これによれば、介護現場において、本来受け取る権限の無い者が他人のマイナンバーに接するとき、カード自体を目視確認することまでは問題無いものの、それを忘れないために控えを取ったり携帯でカメラ撮影することは許されないということになります。

訪問介護員や施設のワーカーなど、介護現場従事者に対してはご利用者のカードをメモ等しない様注意を促す必要があるといえます。

原則3:法的な権限が無く、全くの他人であっても通知カード等を事実上預かり保管することはできる。

民法第697条以下には「事務管理」という概念が規定されており、この概念こそが後述の様に施設側で認知症利用者のカードを保管できる法的根拠となります。
(参照:民法第697条)

「義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。」

要するにボランティアで、自発的に他人のために良かれと思いしてあげたこと(客観的にもその人にとってプラスになる必要がありますが)については、法的根拠が認められ、かかった費用(実費分のみ、報酬までは不可)の請求が認められるというものです。施設としてはこれを根拠に預かるため、認知症の利用者については個別に委任状を用意する必要がないことになるのです(健常者であれば委任状を取得する)。

さりとて、本人のためになるからといって何でも許されるというものではなく、具体的にどこまでできるかについては実務の実態と折り合いをつけ解釈を重ねていく必要があります。現状では、「施設で預かる場合通知カードの入った封を開封することなく、そのままの状態で金庫に入れ保管する」という方法が望ましいと考えます。原則2で述べた通り、開封して利用者本人のカードか記載を目視確認すること自体は許されるのですが、やはりカードを直接出してしまうと散逸のリスクも高まるため、そこまではしない方が無難でしょう。

「施設の方で利用者のカードも預かって良い」というと、後に原則5.で紹介する番号法15条や20条(「何人も、前条各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報(他人の個人番号を含むものに限る。)を収集し、又は保管してはならない。」)の規定に抵触すると思われるかもしれませんが、この点については、もし施設側で受け取りを一律に拒否すれば役所としては多いに困るという確たるニーズが存在します。少なくとも外岡が確認した範囲では、総務省も各地方自治体も皆「施設の方で受け取ってほしい」という見解を示していました。

一方で「預かることも拒否もしない」というスタンスでは、郵便局員が認知症の利用者であってもそのまま渡すことになりますが、散逸・紛失する可能性が高いことは明らかであるところ、場合によっては施設の「安全配慮義務」違反を追及されかねないというリスクが生じます。ですから現実にも、施設としてはひとまずニーズのある利用者につき事務管理としてカードを預かることが妥当であるといえるのです。

在宅の場合については、これも私見ですがこの場合事業所としては一切預からない、手を出さないという方針が妥当でしょう。

勿論理屈の上では、例えばご自宅へ出入りするヘルパーが同じく事務管理として利用者のカードを預かることは不可能ではありません。しかし施設との決定的な違いは、在宅の場合関係職員らの「支配」が完全に及んでいないという点にあります。要するに一つの建物内で完結しない流動的な形態である以上、複数ある中の一事業者が代表して預かるということはやや行き過ぎな感があり、本来干渉が許されない他者の私的領域へ「ボランティア」として必要最低限と認められる程度において関与するという事務管理の本来の性質に鑑みれば、在宅の場合はリスクの大きさも去ることながらその理論構成も困難と言わざるを得ないのです。

原則4:マイナンバーを過失で漏えいさせた場合は処罰されない。

番号法第67条以下は、他者の個人番号を正当な理由なく外部に提供したり盗用する様な、いわゆる「故意犯」の場合に厳しい刑罰を科していますが、うっかり漏えいさせてしまう「過失犯」を処罰する規定はありません。あまり意識が緩んでしまってもいけませんが、介護現場の職員には「もし万が一漏えいさせてしまっても、わざとでなければ処罰はされません。」等とアナウンスすることで過剰な警戒や萎縮等の心理的負荷を軽減させることができるでしょう。

原則5:マイナンバーを過失で漏えいさせた場合、民事上の責任は生じ得る。

原則4と矛盾する様ですが、飽くまで刑事と民事は別物です(更にいうと行政上のペナルティも、全く別次元の話です)。

基本データや名簿等の個人情報を漏えいさせたことにより、
5,000~15,000円
程度の慰謝料を一人ひとりに認めた判決も過去に存在します
(大阪高裁平成13年12月25日判決など)。

今後、マイナンバーを不当に流出させた場合いかなる賠償義務が課せられるかは事件が起きてからでないと分かりませんが、極めて重要な情報であることは間違いありません。間違っても理由なくご利用者のナンバーのメモを取ったり、写真を撮る様なことはしない様、現場職員への呼びかけが必要です。

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各対応表の使い方

在宅サービスの方は「在宅編」を、施設の方は「施設編」を見、ご利用者一人ひとりにつき、組織としての状況別の対応方針を固めます。左上の「スタート」から順に見ていきます。

施設の場合は、余裕があれば全利用者につき、①住民票が施設にあるか②ご利用者自身が通知カードの受け取りを希望されるか否かを確認しておきます。
当日受け取るときも、一応ご本人に(その方が認知症であっても)「大切なものなので施設で当面お預かりすることもできますが、如何致しますか?」と尋ねられるとよいでしょう。預かり証まで個別に作ると煩瑣であり、認知症の方であればその預かり証自体を保管できない以上、あまり意味も無いかと思われますので、とりあえずお預かり対象者のお名前のリストだけ作っておけば十分かと思います(その際、勿論マイナンバーまで記録することは不可)。

施設編について

問題点…利用者の大抵は住民票を施設に移すため、通知カードは施設に直送されます。施設職員としては、利用者宛てに送られた通知カードを代わりに受領・保管して良いのかという問題に直面することになります。

利用者が認知症の場合は、委任状にサインをもらい代理人として受領することができません。家族の許可を得れば安心材料にはなるが、世帯分離をしていれば「他人」であり、後見人に就任していない以上法的権限はないため悩ましいところです。

一方で簡易書留郵送の実務は、ご存知のとおり「必ず名宛人本人に引き渡す」ことを保証する運営にはなっておらず、受領書には職員が自分の名前をサインするだけで受け取ることが可能であり、今まではその様な方法で何とか対応できていました。

今回はマイナンバーであり、重みが異なります。「ただでさえ厳格な管理責任が課せられる重要書類、安易に受け取れば紛失・盗難のリスクにさらされる… しかし、自分の施設で面倒をみている以上、それこそ無関係な「他人」として受け取りを一律拒否することは、福祉事業としてあまりに冷たいといえないだろうか。(受け取り拒否すればカードは管轄の市役所に返送され、本人が取りに行かなければならなくなる)。」…その様なジレンマを全国の施設が抱えている訳ですが、施設全体としてどのように対応していくべきかを検討しましょう。

組織としての対応をバラバラにしない(現場職員に周知徹底・統一する)こと

施設の場合は、この点を徹底して下さい。中途半端は禁物です。対利用者のカードの取扱を事前に決めておき現場に周知しておかないと、現場の判断で「ある利用者については預かったが、別の利用者の分は受け取りを拒否してしまった」等という行き当たりばったりの対応になり、混乱の素となります。

原則3.で述べたとおり、施設は事務管理としてカードを預かることもできますが、無理に管理責任を背負い込む必要などないことも真実であり(原則1参照)、まず一大方針として「受け取るのか、受け取らないか」を決める必要があります。

対応表は、前者の受け取る前提で書かれていますが、その場合、まずできる限り多くの利用者についてその住民票が施設になっているかを確認する作業から始めます(①)。②において、利用者に判断能力があるか否かを見極めるのも厳密にいうと難しいものがありますが、当座は一般人としての感覚で判断すれば足りるでしょう。利用者がご自身で字を書ける場合は委任状にサインを求めます。「自分で管理する」と答えられた場合は、勿論そのようにして頂いて構いません。

問題は全く判断能力が認められない場合ですが、その場合は下表の分類別に対応していきます。表の右上の関係図の中で、家族から施設に向けられた矢印の下の吹き出しに「この方法で問題無いか役所に確認!」とありますが、これは原則5.の「世帯分離者は他人となる」問題の確認を意味しており、できればそうした方が無難ということでしかなく、実務上は受け取りに来た家族にそのまま渡して問題ないでしょう。

後は分類表に従い然るべく対処していけばよいのですが、現実にカードを一通り集め役所に通知しても、その担当者が次に採るべき方法を指示してくれないことが考えられます。役所の立場でいえば、預かってもらうまでは良いが、実際にナンバーを使う段階になるとそこは後見人の領域であり、「全ての利用者に後見人をつけるということでしか解決できない」という不都合な真実に直面することになるのです。「身寄りのない利用者全員に急いで市長申立てで後見人をつけることも到底できないし、まだ制度が本格化するまで余裕があるから、取り敢えず現状維持しておこう。」と最終的に判断することの方が多いのではないかと思われます。その場合は理不尽な話ですが、一旦預かった以上は責任をもって引き続き金庫内で保管する必要があります。そういった先々のことも十分考えた上で、施設はカード交付が始まる前に方針を確定させるようにしましょう。

なお、もし「何故施設の方で勝手に預かったのか」と万一咎められるようなことがあれば(事前に役所に確認すればよいことなのですが)、原則1を示し「本来は役所の方で責任をもって対処すべきことを止むを得ず代わりに考え実行したまでであり、感謝こそされ非難される筋合いはない」と反論すべきです。

在宅編について

これは原則3.で述べたとおり、外岡の考えとしては一律に「関わらない」という方針を採りますのでそれほど悩む必要はありません。一方で各利用者からマイナンバーに関する質問や相談を受ける機会が多いかと思いますので、表の右端の回答例を参考に、よくある問いにつき想定問答集を作る等されるとよいかもしれません。いずれにせよ方針が単純である分、現場ヘルパーに対する周知徹底には力を入れるようにしてください。

以上がおおよその説明になりますが、もし新たな疑問等生じられましたら「外岡さんに聞いてみよう」のサイトからメールにてご質問頂くことができます。トラブル事例等も寄せられるかと思いますので、ある程度事案がたまりましたらまたQ&A集を掲示する等したいと思います。事業所の皆様はマイナンバーの本格始動まで時間も残されておらず大変かと思いますが、ご利用者とより良い円滑な関係を築いて行かれます様、これからも微力ながら応援して参ります。

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