リスクマネジメントコラム

平成28年7月26日未明、神奈川県相模原市の障害者支援施設「津久井やまゆり園」において、多数の入所者が殺傷される事件(相模原市障害者施設殺傷事件。以下本件ともいいます)が起きました。

死者数は戦後の犯罪史上最大であり、その態様は無防備な障害者施設の、夜間という手薄な時間帯を狙い計画的に実行したものといえ、極めて卑劣かつ残忍な犯行といえます。

このような悲劇は二度と繰り返させてはなりません。

しかし一方で多くの障害者施設は、人の多い町中からは離れた場所にあり、十分な人員体制も対策資金も無く、そもそも施設の構造自体が銀行等の様に外部からの侵入・攻撃を想定していないという現状があります。

その様な中、今からでもできる現実的な方法を考えまとめてみました。
中には私見も含まれており、筆者自身は警備の専門家ではないため内容につき保障はできませんが、元より安全策に「正解」といったものは無く、全ては結果です。何かしらヒントになれば幸いです。
今回犠牲になった方々に心より哀悼の念を表し、全国の施設利用者、勤務者の皆様が少しでも安心して生活できる様祈念します。

当ページを参照にあたり

※本コラムの内容はともかくも実践を意識した現実的内容となっているため、生々しい部分もあり、読む人によっては気分を悪くされることもあるかもしれません。そのときは無理をせず離脱してください。

※本コラムは、相模原市障害者施設殺傷事件と同種の事件(障害者を狙う目的をもって施設に侵入し危害を加える場合)の再発を想定したものであり、いわゆる「不審者」全般への対応とは異なります。ここまで酷い事件は二度と起きないかもしれず、そう願いたいものですが、無抵抗な利用者の命が奪われるという最悪の事態を想定し対策を講じることは決して無駄にはなりません。

心構えと事前対策

以下、①同種の事件に備えた心構えと、②具体的な方法に分けてお伝えします。

同種の事件に備えた心構え

1.他でもない、「自分が」何とかする。2.利用者を避難させる暇はない。3.複数で立ち向かい、取り押さえる。

利用者がぐっすり眠る平穏な世界が、まさか一瞬のうちに戦場の様な凄惨な現場に変わるとは、特にこの日本では誰も想像できなかったでしょう。ですが現実には何が起きてもおかしくない、あらゆる可能性が確かに存在するのです。

もしあなたが夜勤勤務者だったとして、同じような状況に居合わせたらどうしますか。法律の理屈を持ち出すまでもなく、無防備な利用者を、体を張って守らなければなりません。

こと加害者が確信犯的であり、犯行後はどうなっても構わないというテロと同様の思考で向かってくるのであれば、特に本件の様な元職員という施設内の構造や勤務体制を熟知した者であれば、施錠を強化したり、まして異変に気づいてから利用者らを避難させる様なことは無意味です。警察に通報することは勿論直ちにすべきですが、郊外の施設であれば到着まで数分かかることもあるでしょう。

その間、自分や利用者を守れる存在は、自分しかいないのです。利用者を守ってくれるのは、強固な建物でも、警備会社でも、法人でもないのです。最後は自分しかいないのです。

まずその自覚、意識を根本に据えることが大切です。心の準備をするのです。さもなければまた想定外の事態に直面したとき、思考停止しなされるがままになってしまうかもしれません。
勿論、たった一人で立ち向かえという訳ではありません。夜勤が二人いれば当然連携します。ですが重要なことは、外部通報も必須ですが根本的には「犯人を取り押さえる」というシンプルな方法でしか、危害を食い止めることはできないのです。かくいう筆者自身は勇気のない人間ですから、正直に自分の心の底を見つめると、犯行現場に居合わせたらきっと足がすくんで何もできなかっただろうと思います。一人で逃げ出していたかもしれません。

誰もその場に居合わせた職員らを非難することはできないのです。ですがそういった葛藤を措いて、敢えて本当に思うところを書きますと、当時職員は8人いて、どうしても犯人を止められなかったのだろうか。何故結束バンドで縛られたのだろうか。無抵抗だったのだろうか。何故通報が、一連の犯行が終わってからとなったのだろうか。そのような疑問が浮かび上がります。

繰り返しますが、職員を責める趣旨ではありません。しかし事が事である以上、しっかり経緯を見つめ、分析し、教訓を引き出すことだけはしなければなりません。本稿執筆時点で犯行当時の詳細は不明であり、また「たられば」を論ずることは本来控えるべきですが、例えば加害者が窓から侵入したのを見た瞬間、覚悟を決め「犯人は一人、こちらは8人」とまず自分を落ち着かせ、仲間に知らせ結束することができたかもしれません。

具体的な方法

以下は、筆者が新聞やネット等から関連情報を収集し、障害者施設や警察署、警備会社等にヒアリングした内容を取捨選択したものです。偏見が含まれているかもしれませんが、参考になる箇所が一つでもあれば幸いです。

予防策・優先順チェックリスト(参考)

さすまた、長い棒を買う

さすまたとは、U字形の金具に2-3メートルの柄がついた武具であり、江戸時代から続く捕獲用具です。手の首や腕などを壁や地面に押しつけて捕えます。

具体的な使い方は、筆者の専門分野ではないのでぜひ警察にしっかり習って頂きたいのですが、本来一対一で使用するものではなく、出来るだけ複数で同時に突き取り押さえることがポイントです。最低3本は購入すると良いでしょう。

平時は人目につかない場所に保管します。いざというとき職員が同時に構え相手に向かっていける様、フォーメーションの組み方も含め想定訓練をしておくとより効果的です。

ナイフの様な凶器を持った相手に対しては、ともかく丸腰で向き合わないことです。棒でも何でも構わないので、自分も何かを持ちましょう。リーチがある方が有利です。錫杖の様な長い棒を備えておき、相手の手からナイフを叩き落とすことも効果的です。

見回り時や、女性職員の場合はお守り代わりに催涙スプレーを携帯しても良いでしょう。もっとも、それも一度は使ってみていざという時に役に立つよう確認しなければ意味はありません。

なお、ヒアリング先で「盾もあると良い」といったアドバイスがありましたが、個人的には疑問でした。狭い場所では瞬時の移動に差し支え、近距離戦となるため相手に奪われる危険性も高まり、刃物を相手にする場合は先手で封じることが最大の防御といえるのではないかと思います。

施錠が破られないか確認

本件は元職員による犯行でしたが、職員が都度退職するたびに、オートロックの暗証番号を変更するといった細かな措置を講じているかを見直しましょう。南京錠等の物理的鍵であれば、古びていないか、簡単に切断されないか等を見直します。

もっとも、本件の様に鍵を奪われてしまえばどんなに強固なセキュリティも破られてしまうため、防護壁を追加したり壁を高くすることは却って逆効果ではないかと思われます。いざというとき職員側の動線に支障が生じ、なにより利用者の移動の自由が制限されてしまいます。見た目がまるで精神病棟か刑務所かの様な厳めしい外観はもはや日常生活の場とはいえず、更に言えば中の職員があたかも「建物が自分たちの身の安全を守ってくれる」と誤解し、知らず知らずの内に依存心を育ててしまうという悪影響もあると考えます。心構えで述べたとおり、最後は個々人の覚悟であり利用者を守る気概の問題であることを繰り返し見つめ直すことが大切です。

緊急通報ボタンの導入

警備会社は高額であり資金面で難しい施設も多いかと思いますが、使うなら緊急通報ボタンだけ最低限導入すると良いでしょう。コンマ何秒を争う非常に悠長に警察に電話を掛けている暇はありません。押せば連絡がいき、警察にも繋がる様にしておきます。最低限、施設備え付けの現行の携帯には110番を短縮登録しておきましょう。
なお、防犯といえば真っ先に挙げられるのが「監視カメラ」ですが、筆者としてはこれを増やしても無駄と考えます。現に本件でもやまゆり園は正に警察のアドバイスを受け事前にカメラを増設し、犯人の姿も映りましたが、肝心の人命を守る役に立たなかったのであれば全く意味がありません。

本気で考え、最も切羽詰まった状況を想定することです。究極的には物理的に制圧するしか、利用者の命を守る術は無いと心得ることが重要です。

更にいえば、警備会社の提供する窓枠やドアに取り付ける人感センサーも効果はあまりなく、むしろ利用者の行動で誤作動するため思わぬところで足を引っ張られる危険性があるといえます。まずは非常時のホットラインを確保する趣旨で通報ボタンを取り付けることが先決でしょう。

職員間無線インカムの導入

日中も含めた全面的導入は難しいかもしれませんが、警備が手薄になりがちな夜間はインカムを常備し、敷地内の連携を強化します。特に見回りの者は、異変に気付いたときすぐに管理棟に知らせられる様耳にセットし電源を入れっぱなしにします。

警察署安全生活課に犯人確保の方法を習う

小学校や保育園等と情報交換

先達に学び、連携するという一石二鳥の効果を狙います。池田小学校襲撃事件以来、小学校では警備体制が真剣に検討されるようになりました。施設の近所の小学校、保育園を訪ね、どんな工夫をしているか聞いてみましょう。
もし「うちも何かしなければと思っていた」ということであれば、そこを誘って一緒に管轄の警察の生活安全課に行き、合同で不審者取押えの講習を受けます。普段から顔見知り、協力者を増やしておくに越したことはありません。

緊急時対応の定期的訓練

「天災は忘れた頃にやってくる」の格言は、勿論人災にも当てはまります。何より重要なことは、こうした取り組みを風化させないことです。場合によっては抜き打ちで緊急対応テストをしてもよいでしょう。地震や火事等の天災は飽くまで間接的な危害であるため避難訓練はのどかになりがちですが、(気は重いですが)極論「生きるか死ぬか」の緊張感をもって訓練をする必要があります。

最後に

最後に もし何もない状態で危害に遭遇したら

まず大声を出します。町中の場合、「人殺し!」等では家々の人も危険を感じてしまい却って出てこなくなるので、「火事だ!」等と叫びましょう。
ですが気が動転していると思うので、大声であれば何でも構いません。施設内であれば「警察を呼んでください!」でもよいでしょう。

声を出せば緊張が解けます。自分自身の金縛りを解き、冷静さを取り戻すためにも叫ぶのです。やってはいけないことは、利用者の安全を思うあまり安全な場所に誘導しようとすることです。人災の場合「安全な場所」等ありませんし、仮にあったとしてもそこに移動する時間は無いのです。犯人に背中を向けてはなりません。どんなに怖くても立ち向かいます。二人いれば恐怖も半減します。その覚悟と勇気をシミュレーションで養っておくのです。

とっさの時何もなければ、向き合うのであればなるべく長い棒を持ち、逃げる場合でも最初に手あたり次第に、机でも椅子でも相手に投げつけます。手加減はいりません。

最後に、「人がいない、お金がないから何もできない。」は禁句です。新聞等の施設側のコメントはこればかりです。そう言いながら何もせず次に同種事件に巻き込まれたとき、必ず後悔することになるでしょう。

資金が無ければ保護者に寄付を募る。小規模で夜勤1名体制の施設もあり、大変とは思いますがむしろそのような手薄なところこそが次に狙われると思うくらいがちょうどよいでしょう。無理は禁物であり、続けられなければ意味はありませんが、できることは絶対にあるはずです。諦め、人任せ、依存心を最も警戒すべきといえます。

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