弊所の顧問弁護士としての対応ケースをご紹介します。顧問契約のご参考になれば幸いです(守秘義務の関係上、一部事案を改変しています)。
当事務所は介護・福祉分野のトラブル予防、トラブル対応に特化しております。日々、様々な事案に対応しますが、今回ご紹介するのは「介護事故における行政への報告」についてです。
どんなに気を配っていても、事業所では転倒事故などの介護事故を完全に防ぐことは至難の業です。想定外の事故が発生する場合もあります。事故が発生すると慌ててしまいますが、適切な対応をしないと後で後悔することになりかねません。事故が発生した場合は行政(市町村)への報告義務が生じますが、この流れや報告時の注意点を知っておくことが重要です。
今回は、当事務所の顧問先である、とある社会福祉法人の施設で発生した介護事故の対応に関するご相談と当事務所の対応についてご紹介します。
転倒事故発生時の対応とその後の流れの理解が重要
当事務所の顧問先の特養の施設長からメールでご相談をいただいた事例です。
当事務所の顧問先の施設長からメールでご相談をいただいた事例です。
ある入所者が転倒して骨折し、病院に運ばれ入院が必要と診断されました。その後、ご家族からは施設に対してクレームがあり、入院費用の要望が出ました。このクレームを受けて、施設長から当事務所へ「入院費用は支払うべきかどうか」というご相談がメールで送られてきました。
当事務所から、まずは施設が行政へ提出する事故報告書、アセスメントシート、転倒発生時の映像データを送っていただくことを依頼し、その内容を確認しました。施設長は、「施設で事故が起きたら毎回賠償しなければなりませんか?」等、事故後の賠償に向けた手続きの進め方のご理解が不十分と思われるやり取りがありました。そこで当事務所は、そもそも全ての事故につき無条件で賠償義務が生じるものではないこと、個別に保険会社が審査すること等をひとつひとつ丁寧にアドバイスすることにしました。この段階でミスをしてしまうと、入所者家族や施設に余計な負担が増え、最悪裁判に訴えられかねません。まずは保険会社へ連絡し、査定を受けるようアドバイスしました。
すると保険会社から、損害保険がおりるという電話連絡があったそうです。念のため保険がおりるということをメールや書面などで確認し、後から「言った、言わない」にならないよう記録を残すことをアドバイスをしました。
今回問題となったのが「事故報告書」(略して「事故報」)です。これは、いつ、どこで、誰が、どのように事故に遭ったか等の基本的な情報を定められたフォームに記入し、事故後に管轄の市町村介護保険課に提出するものです。事故後、遅くとも5日以内に第一報を提出し、その後「事故原因」や「再発防止策」等を網羅した第二報、最終報を提出しなければなりません。
最初に送られてきた事故報は、基本情報だけで「事故原因」や「再発防止策」の欄は空欄でした。第一報はこれでいっこうにかまいませんが、問題はこれらの欄に何をどう書くか、なのです。
事故報は本来行政に提出するものですが、実はいざ民事訴訟を提起されれば賠償義務認定の重要な証拠になります。とりわけ「事故原因」や「再発防止策」に記載された事柄は、施設側の認識を書いたものですからその記載が過失認定の根拠になります。過失認定が微妙なケースでも、「あのときこうすればよかった」とはっきり書いてしまうと、「予防できたはずだ」と裁判所は見做してしまいます。
では、施設としてこの事故報とどう向き合うべきでしょうか。
難しい問題ですが、「事実を曲げず、現場の認識や思いを素直に書く」ことが大前提となります。
過度に自分たちを責めたり、利用者を気の毒に思うことで敢えて不利になるような記載をする必要はなく、一方で自己防衛のため何が何でも「責任はない」というスタンスで書くのもいけません。仮に施設側に不利となるような事柄でも、最終的には損害保険が下りることになるのでそこはご安心ください。ただ、「ここに書くことが裁判所でも注目される」という認識もなく、ただ必要だから埋めたという意識で矛盾するようなことを書いてしまうと後々後悔することになるでしょう。
事故報を作成・提出するときは、このように先の先まで見通した上で慎重に検討する必要があるのです。
そこで当事務所は、施設長に最終報の下書きを事前にメールで送信頂き、確認することとしました。その文章の表現に誤りがなく、事故原因等の評価としても問題が無ければ提出ということになります。
事故報は行政に提出する公的な文書なので、ここに記載したことが全てとなります。後で言い逃れや訂正が出来ないので、くれぐれもご注意ください。
また、今回の事例にあったように、事故発生後の対応の仕方についての全体の流れの理解も重要です。通常業務を行いながらイレギュラー、かつストレスフルな事故対応もせねばなりませんので、施設長は大変です。顧問先様であれば事故発生直後からこのように伴走して適宜アドバイスをして差し上げることができますが、出来る限りスムーズに的確に対応するために、全体の流れを事前に把握しておいて損は無いでしょう。
当事務所では、事故後の適切な対応としての全体の流れをまとめた資料をご用意しております。無料で配布しておりますので、この機会にぜひダウンロードしてください。イラスト入りでわかりやすい作りにしております。
施設長はじめ現場の職員にも共有いただき、施設全体で理解浸透していただくと、今後の事故対応が的確かつスムーズになるはずです。
当事務所は介護福祉分野に特化した弁護士法人ですので、事態を見極め適切なサポートをご提供することが可能です。全国に100を超える顧問先があり、介護福祉分野のトラブル対応実績も多数ございます。起きてしまったトラブルへの対応だけでなく、起きる前の段階でトラブルを防ぐ対応も可能です。
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