弊所の顧問弁護士としての対応ケースをご紹介します。顧問契約のご参考になれば幸いです(守秘義務の関係上、一部事案を改変しています)。
当事務所は介護・福祉分野のトラブル予防・対応に特化しております。日々様々な事案に対応しますが、今回ご紹介するのは「身体拘束に関する間違えやすい認識」についてです。
日々、忙しい業務の中でご利用者の日常生活をサポートしていると、少なからず身体拘束を実施せねばならないシーンがあると思います。身体拘束自体は、いかなる場合も許されない訳ではなく、切迫性、非代替性一時性の三要件を満たしさえすれば例外的に実施可能です。極力身体拘束をしない策を選ぶべきではありますが、ご利用者の生命や健康に大きく悪影響を与えてしまう場合はやむを得ず実施することもあるでしょう。
ただし、間違った認識や判断をしていると身体的虐待になりかねず、大きな問題に発展します。
そこで今回は、実際にお受けしたご相談事例を題材に情報をご提供します。身体拘束の間違った認識を正すきっかけにしていただければ幸いです。
これって身体拘束?
メールで身体拘束に関する質問をいただきました。
80代の女性ご利用者の排泄介助の際、頑なに拒否しており、スタッフに対する暴力もありなかなか清拭やおむつ交換などが進まない状態だったそうです。ご家族から「清潔にしてほしい」との希望があり、スタッフ2名体制で対応しました。
1人が両手を押さえ、もう1人がおむつ交換を実施したそうです。便や尿が排泄されたままのおむつを履き続けることは、ご利用者にとっては不衛生で健康を害する危険性があります。何度も粘り強く関わり、おむつ交換、排泄介助を受け入れていただくようご利用者を説得しましたが、すんなり受け入れられることはありませんでした。おむつ交換を実施した後は、ご家族から喜ばれたそうですが、ご本人はどういう心情だったかはわかりません。このような状況説明をいただきました。
そのうえで「おむつ替えのために、ご利用者の両手をつかみ、無理やり交換する行為は、身体拘束や虐待防止となるのか」という質問をいただきました。
当事務所は「行動制限をしているので身体拘束になります」と回答しました。
もちろん「身体拘束の三要件」を満たしている必要がありますが、ご質問の行為は身体拘束に該当すると認定し然るべき対応を取る必要があります。
そもそも、「身体拘束=拘束具」という固定観念が無いでしょうか? それは誤りです。
安全ベルトやミトンなど、道具で身体を常時拘束するだけでなく、手で利用者の身体を押さえる行為も、身体拘束です。
この点、厚労省の「身体拘束ゼロへの手引き」には明確な定義はなく、運営基準記載の「身体拘束その他入所者(利用者)の行動を制限する行為」とし、主に道具を用いる拘束例を挙げるのみですが、たとえ一瞬でも利用者の手足を掴み取り押さえる行為は身体拘束以外の何物でもありません。
この点を誤解している方も、意外と多いのではないでしょうか。「一瞬だからノーカウント」という意識があるのかもしれません。一瞬なので現場では流されてしまい見落としてしまうということもあるでしょう。しかし、権利擁護の観点からはそのような事例こそ見落とさない意識が求められます。
以前「特養で予防接種をする際利用者が暴れるので、職員が腕を押さえ看護師が注射した」というエピソードを聞き、身体拘束として検証、記録をしたか尋ねたところ全くその認識が無かったため唖然としたということがありました。
今回も同種の事例であり、「道具を使わずにご利用者の行動を制限する態様も身体拘束になる」ということを皆さまにお伝えせねばならないと強く感じました。
身体拘束に該当するとして、次に検証しなければならないのが先に挙げた三要件です。「切迫性」「非代替性」「一時性」の三つを満たしていないと適切な身体拘束とは認められません。突発的な危険に対してはスタッフ個人の判断でやむを得ず拘束しますが、必ず事後的に要件を満たしていたかを検証する必要があります。
本件はレギュラーワークなので、事前に協議検討すべきでした。次のような検証を行います。
切迫性…おむつ交換という、生死に関わるケアではないので切迫しているとは言い難い。ただし陰部の衛生保持は尿路感染予防等の観点から重要であり、他に代替手段もなく重要度が高いと言いうる場合は例外的に認められる。
非代替性…時間をおいて落ち着くまで待つ、粘り強く説得する、交換を嫌がる理由を探り対策を立てるといった措置を講じてもうまくいかない場合は、他に方法がないと認め得る。
一時性…交換時の短い時間に限定されるので、満たす。
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よって、身体拘束は例外的に認められると判断する。
また、身体拘束を実施した際の記録、経緯も残しておかなければいけません。このあたりの詳細は、当事務所のコラムで解説しておりますので、ぜひご覧いただければと思います。
誤解されがちな点をもう一つ付け加えると、「本人やご家族の同意」は必須ではありません。緊急やむを得ない場合については、本人やご家族の同意なく実施することが可能です。
この点も誤った認識のままでいると、現場で危険が差し迫っているのに、ご家族と連絡がつかないから何もできない…」等と状況を放置し事件が起きてしまうといった事態になりかねませんので、正しくご認識ください。
身体拘束に関しては現場が正しい知識を持っておかないと、運営指導で指導対象になりかねません。よくあるのが、前述の「三要件に関する検証や実施時の記録がない」というものです。虐待については法令がありますが、身体拘束に関しては現状明確な法令が無く、厚労省が出している先に紹介したガイドラインしかありません。それ故に判断が難しいところですし、誤認したまま実施するというリスクは多いにあります。
当事務所は現場で判断に迷う身体拘束に関して、様々な知見、トラブル対応事例を持っております。顧問先には、現場で発生した様々なご不安やご質問に日々対応し、円滑な業務遂行をご支援しております。施設が行政から「虐待ではないか」と疑われたとき、明確な根拠をもって反論しこれを覆したこともあります。
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