行政と現場の考え方のズレには論理的に毅然と対応を

弊所の顧問弁護士としての対応ケースをご紹介します。顧問契約のご参考になれば幸いです(守秘義務の関係上、一部事案を改変しています)。

 

当事務所は介護・福祉分野のトラブル予防、トラブル対応に特化しております。日々、様々な事案に対応しておりますが、今回ご紹介するのは「身体拘束における行政と現場の認識のズレ」についてです。

昨今の虐待防止の機運を背景に、身体拘束については行政もしっかり実施状況を確認しようとしています。これはこれで良いことなのですが、時に行政の教科書通りの指摘、介入が現場の認識とズレている場合があります。保険者である行政からの指摘というのは、事業所側からするととても不安を感じるものだと思いますが、行政側が全て正しいわけではりません。介護福祉現場の見解が正しい場合もあり、その場合は論理的に毅然と説明し対応するべきでしょう。

今回は、当事務所にご相談のあった、行政側と現場の認識のズレで起きたトラブルの事例を解説します。

全介助レベルの入所者の部屋を施錠したら身体拘束なのか

当事務所へメールで顧問先から次のようなご相談がありました(多少事例を改変しています)。

施設の認知症対応フロアに、医学的管理が必要な入所者が数名いました。どの方も全介助レベルで一人では自由に動けない方でした。点滴、胃ろう、酸素吸入をしており、同じフロアにいる他の認知症入所者が入って機器を誤って触ってしまうと危険なので、その方々が入居している一部屋を施錠していました。担当している医師からも指示を得ており、この対応に関して、施設側では「入所している3名は全介助レベルで一人では自由に動けないため、施錠をしても身体拘束に該当しない」と考えていたのです。

後日、別件で自治体の事業者指導係から実地調査が入りました。その際に施錠している部屋を担当者が見つけ、「これは身体拘束に該当するので、施錠をするに至った検討、話し合いなどの記録、指示内容の記録を提出すること」と指示されたそうです。

しかし、既述の通り施設側は身体拘束と把握はしておらず、施錠に至る前の検討、話し合いの記録などは存在していませんでした。指示を出す行政に対し、どのように対応するべきかというご相談が当事務所へ来たのです。

そもそも「身体拘束」に該当するか?

これに対し当事務所は

「役所に、身体拘束の定義と範囲を尋ね、こちらとしては運営基準に身体拘束の定義として「入所者の行動を制限する行為」とあることから、「本件ではいずれも入居者は自由に行動できないため拘束には当たらないと判断した」、説明すると良いものと思います」

とアドバイスをしました。

身体拘束については、以前このメルマガでも取り上げましたが虐待と異なりその「定義」がそもそもはっきりと法令で定められていません。従って、運営基準の「入所者の行動を制限する行為」を手掛かりとして都度判断していかざるを得ないのですが、自然に解釈すればそれは「入所者の行動の自由を何らかの方法で束縛する行為」ということになります。そうであれば、本件では外部施錠されているご利用者はいずれも自らの意思で行動できない訳ですから、外部から施錠したとしても外出する自由を束縛したことにならず、身体拘束には当たらないといえるのです。

これが、もし自立歩行や車いす移動が可能な方の居室を外部施錠すれば明らかに身体拘束であり、或いは本件でもコールボタンを設置せず、「介助を受けて外に出たい」といったご利用者の要望を無視するような体制であればネグレクト等の虐待が成立します。しかし、そのような事情は見当たりませんでした。

したがって行政に対してはそのように説明し、今回指示してきた記録は特段身体拘束を意識したものは作成していないと答えることで良いと判断しました。

もっとも事業所側からすると、完全に突っぱねてしまうのは少々不安があるかもしれません。ですので、ご希望があれば当職が行政側への説明に同行する、或いは代理人として対応する案内もしました。

あくまで推測の域を出ませんが、行政側の判断の背景には「外部からの施錠イコール身体拘束であり、実施に至った背景や話し合いの記録などを提出させるべきだ」というステレオタイプな認識があったと思われます。

しかしながら、現場は「全介助レベルで一人では動けない入所者であり、施錠をしても行動制限には該当しない。施錠しなければ他の認知症入所者が入室し、機器に触れることで生命や健康に悪影響が出る危険性がある」という判断をしています。

身体拘束は本人の意思に反して、行動を制限することです。やむを得ず身体拘束を実施しなければいけない場合は、「身体拘束の三要件」を満たすときのみで、さらに身体拘束を実施すると判断した経緯、話し合いの記録、実施記録など記録を取らなければいけません。これらを実施しないといけないのですが、本件に関してはそもそも身体拘束に該当しませんでした。

双方の認識のズレの元をたどると、身体拘束の定義の問題に遡ります。勿論、先に挙げた筆者の理解が絶対正しいという法的根拠は現状存在しないのですが、自然に解釈すればそのようになるはずです。少なくとも、身動きがとれないご利用者の安全確保のために、施錠や安全ベルト等の措置をとることがどうなるか」について議論が詰められていないことは確かであり、現場の混乱を防ぐためにもこの点を突き詰める必要があるでしょう。

正しい知識が事業所を救う

本件のように行政の教科書通りの指示で困惑する現場は少なくありません。行政は保険者であるので、どうしても不安に感じ指示に従いがちですが、施設内で確固たる判断基準に基づき丁寧なプロセスを経て決定したのであれば、毅然と対応して問題ありません。

それでも不安がぬぐえない場合は、当事務所のような介護福祉分野に特化した弁護士法人を頼ってみるのも一策であると思います。実際に、不本意な虐待認定をされたことから行政に抗議に行き、認定を取り下げさせたこともあります。

当事務所は現場で判断に迷う身体拘束に関して、様々な知見、トラブル対応事例を持っており、顧問先には現場で発生した様々なご不安やご質問に日々対応し、円滑な業務遂行をご支援しております。

当サイトには顧問弁護士に関するご紹介ページもございますので、ぜひご覧ください。まだ顧問弁護士契約をされていない方で顧問契約を真剣にご検討頂いている方には20分無料のオンライン面談もご提供しておりますので、お気軽にお問合せください。

 

 

また、本コラムはミニコラムとして、短い文章で事例をご紹介しております。もちろん守秘義務の関係で内容は改変しておりますが、お伝えしたいポイントはしっかりお伝えしております。

 

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