弊所の顧問弁護士としての対応ケースをご紹介します。顧問契約のご参考になれば幸いです(守秘義務の関係上、一部事案を改変しています)。
当事務所は介護・福祉分野のトラブル予防、トラブル対応に特化しております。介護福祉事業におけるトラブルというと、転倒事故や虐待、身体拘束等を想像する方が多くいらっしゃると思いますが、施設事業所の活動は多岐にわたりあらゆる人が関与するので、小さなトラブルもあれば「これはどうしたら良いのだろう?」と判断に悩むような事例まで、あらゆるご相談をいただきます。「これまでに経験の無いことなので判断ができない」、「事業所側で判断するのは不安がある」、そういった事例が多々あります。
今回は、当事務所の顧問先が判断に迷い相談された「利用者の身元引受人以外の親戚から、利用者の情報開示を求められた場合はどうしたら良いの?」というケースをもとに、個人情報開示に関する考え方を解説します。
介護施設にはつきものの「相続問題」
「私の叔父の施設利用にかかった総額利用料を教えてほしい」
ある日、顧問先の施設にこんな依頼がありました。半年前に死亡して退去された入所者Aさんの姪を名乗るCさんからの依頼でした。Cさんから連絡がきたのは初めてでした。
Cさんの依頼は、Aさんに関する個人情報ですので、簡単に開示できるものではありません。
Cさんの説明では、
・Aさんの遺産につき、相続の問題が発生している
・Aさんと、Cさんの母親は姉妹である
・Aさんは独身で子どももおらず、順番からするとCさんの母に相続権が認められる
・Aさんの遺産を公平に相続するため、Aさんの生前にかかった費用を知りたい
・Aさんの身元引受人は、Aさんの弟(故人)の妻Bさんであった
・「戸籍謄本を提出すれば、施設は費用を教えてくれる」と弁護士にアドバイスをもらった
ということでした。戸籍謄本を持ってくれば施設側は総額の利用料を教えていいものなのか、どのように対応したら良いのかという、施設事務員さんからのご相談でした。
本来は、身元引受人であるBさんに連絡しBさん経由で請求頂くか、Bさんの承諾を得た上で申請いただくべきところです。ところが、施設にいきなり直接問い合わせるということは、恐らくBさんに知られたくない事情があるのでしょう。
介護施設に入所する方の多くは高齢者で、相続問題が発生しやすい立場にあります。それは仕方がないことですが、今回のように遺産の算定や、生前に作成された遺言の有効性(認知症であれば作成しても無効になる)を巡り、親戚から突然情報開示を求められることが度々あります。相続のルールに関する知識も必要となるため、事務局としては判断に迷っても仕方ありません。
たとえ親戚でもご利用者の情報開示は慎重に
結論からいうと、故人の相続人は誰でも故人の個人情報を開示させることができます。しかし、施設の場合は身元引受人という親族の窓口となる人がいるため事情が異なります。基本的な考え方としては、施設からすれば身元引受人が親族の代表であり窓口となるところ、極力その人を介してほしい、と申請者に説明しお断りするということがセオリーとなります。
当初、相談された事務員の方は身元引受人であるBさんに「Cさんという方からAさんの入所にかかった総額利用料を教えてほしいと連絡があった」ことを報告して指示を待とうとしていました。親切な担当者だったので、そのように考えられたのだと思います。しかし、先ほども申し上げたように「相続に関する問題を抱えている」ケースも考えられるので、その行動は止めるようアドバイスしました。
BさんとCさんは相続を巡り完全対立している可能性があり、不用意にBさんに報告しようものなら、今度はCさんから「なぜ勝手にBに私の行動を漏らしたのか」等と責められるおそれがあるためです。
そこで、Cさんに対して「CさんがAさんの姪であるという関係性、Cさんの母親がAさんの妹であることが戸籍謄本により証明されれば開示を検討します」とお伝えするようアドバイスしました。
さらに、Cさんの母親が存命なのであれば、Aさんの相続人は母親となるため、母親から請求してもらうように促すと良いでしょう、とお伝えしました。
個人情報をはじめ各種情報の取り扱いに関しては、世間も厳しい目を向けています。開示した情報が意図せぬことに使われる危険性もあり、それが犯罪へ使われるケースもあるからです。
情報開示に対する姿勢、リテラシーによって施設の情報管理体制、コンプライアンス意識を疑われるリスクも発生します。安易な情報開示は施設の法律違反に該当したり、信用を失いかねませんので、たとえ相手がご利用者の親戚でもうかつに信用して情報開示をしないようご注意ください。
当事務所は、介護福祉分野に特化した弁護士法人として全国に150を超える顧問先をご支援しております。介護福祉分野でのトラブル対応事例が豊富にあり、トラブルを未然に防ぐ研修実績、ご支援の実績もございます。
当事務所の顧問先様であれば、今回のような判断に迷うケース、日常業務中の些細な疑問についてもお気軽にご相談、ご質問いただけます。疑問や不安を解消して、日頃の業務に集中することができます。
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