弊所の顧問弁護士としての対応ケースをご紹介します。顧問契約のご参考になれば幸いです(守秘義務の関係上、一部事案を改変しています)。
当事務所は介護・福祉分野のトラブル予防、トラブル対応に特化しております。今回解説する事例は、施設側から入居契約を解除したいというご相談です。
施設、現場職員をカスハラから守ろうという決意から、発生したトラブルに対してすぐさま解除等の抜本的解決を図ろうとする方もいらっしゃいます。行動力があることはとても素晴らしいことですが、先々を見通して動かないと思わぬ落とし穴にはまってしまうリスクがあります。
今回は、当事務所の顧問先のグループホームで発生したご利用者の迷惑行為に対し、施設側が解除および退去通知を出そうとした事例をもとに通知を出す際の注意点について解説します。
何度注意しても他の入居者に迷惑をかけてしまうAさん
グループホームに入所するAさんはやや気性が荒く、他の入居者に対して暴力をふるったり、他の居室へ入り込み入居者に危害を加えるおそれがありました。何度注意してもAさんに改善がみられず、今後のグループホームでの生活は困難と判断した施設責任者は、Aさんに退去していただくことを決断しました。
契約解除通知の出し方を間違えると泥沼化する
グループホーム側はAさんの退去に向けて、「契約解除通知書」を自ら作成し、それをAさんの後見人に送付しようと考えていました。「主治医、ケアマネ及び職員で退去との結論となりました」という決意の文章と共に、作成した契約解除通知書の確認と、これを送付しても問題ないかということで当事務所にご相談がありました。
その通知文案には、次のように書かれていました。
「当施設利用契約の解除を本書のとおり通知いたします。
記
利用契約の解除理由:利用契約書第〇条(事業所からの契約解除)によるもの
【詳細理由】
1.令和 年 月 日、早朝4時30分に他利用者の居室へ訪室した行為
上記について過去にも同様の事案があり、主治医・ケアマネージャーとも共有を行い施設
職員より注意・指導を行うも改善傾向なく今後も早朝、夜間帯の職員の少ない時間帯に
利用者居室へ訪室し危害を及ぼす可能性が非常に高い
よって今後、共同生活での継続利用は困難と考えられる
従いまして、30日以内に次の入居先が決まり次第、居室の明渡しを履行して頂きたくお願い申し上げます。
以上」
ご相談を受けて、当事務所では、施設側が作成した契約解除通知書を確認しました。書面はしっかり作られており最低限の要件は満たすと思われましたが、当事務所としては施設側のとろうとしている行動にリスクを感じました。
契約解除通知書は「この施設を出て行ってください」という意思表示ですが、一方的な通知で成立してしまい、出す方も後に引けなくなるという特徴があります。これが、「退去のお願い」等であれば単なる提案ですから相手が応じなければそれまでですが、解除通知というものは文字通り「最後の切り札」であり「伝家の宝刀」という位置づけなのです。
そして一般に、在宅サービスの場合は解除を完遂しやすく、入所型の場合は退去させなければならないためその実現が極めて困難である、という傾向があります。
つまり、通知を送り解除自体を成立させたとしても、現実に入居者に出て行って頂かなければなし崩し的に居座られてしまい、今度は施設側から「居室明け渡し請求訴訟」を裁判所に提起しなければならなくなります。最も恐ろしいことは、解除をした以上解除日以降は介護保険が使えなくなり、10割を入居者側に請求していかなければならなくなる、という点です。そうかといって介護自体をストップすることは、ネグレクトという虐待に該当するため許されません。
また実際問題として、入居者からすれば、解除と退去命令を施設から急に言われたらとても驚くことでしょう。出ていく先もないので、「絶対に退去はしない。その契約解除通知は法的に認められない。」と主張して、施設と入居者が闘う構図になってしまいます。施設側は、「やっぱり撤回します」ということが言えず、完全に泥沼化します。仮に無理をして解除を取り下げようとしても、それだけの納得できる理由が無いと利用者側から弱みにつけこまれ、これまでの行為を不問に付したことになります。こうなってしまうと非常に困ってしまいます。後先を考えず安易に契約解除通知を出すことには、実はこのような恐ろしいリスクがあるのです。
こういった場合は、相手がどのようなリアクションを取るか、想定できるよう慎重にコミュニケーションを積み上げていくしかありません。
当事務所は、返信として
「利用契約書の該当条項にどのようなことが書かれているか、条文を教えて頂けますでしょうか。また、今回相手方は、そもそも退去に応じるという意向でしょうか。もし、そのような話し合いを一切しておらず、書面でいきなり解除通知をすると、相手方は頑なになり退去を拒むかもしれません。そうなると利用者本人或いは家族相手に居室明け渡し請求訴訟を提起しなければならなくなり、かなり面倒な事態になることが懸念されます。できれば、最後の切り札を切る前に話し合いを行いこちらの意向を伝え反応を見られると良いでしょう」
とお送りし、アドバイスしました。
すると施設からは、「既にご家族とも話をしており、退去の内諾は得ている」とのことでしたので、それならば今回は退去を求める書面を出しても良いでしょう、とお答えしました。
事業所の施設で生活している入居者の場合は、このように慎重に対応した方が良い場合が多いです。逆に事業所が訪問する形態の場合は、解除に踏み切っても「二進も三進もいかない」状態に陥る心配は基本的にありません。
隠れたリスクを見出すために顧問弁護士を味方にする策があります
この判断、塩梅がなかなか難しいところではあります。ひとつ間違えるだけで泥沼の訴訟になりかねませんので、いかに悲観的な観点で次に起こり得るリスクを把握できるかが重要です。
迷った場合は、法律の専門家に相談してみると、判断材料を提供していただけるのではないでしょうか。
当事務所は、介護福祉分野に特化した弁護士法人として全国の150を超える顧問先をご支援しておりますが、判断に迷うご相談に対して即座に上記のようなアドバイスを行ったり、書類テンプレートをご用意してお渡しすることを行っております。万一、トラブルが大きくなったりした場合は、代理人として対応にあたることもあります。
介護福祉事業所は事業を止めると、多くの方々の生命や健康にもかかわってきます。出来るだけトラブルは未然に防ぎ、トラブルが発生しても出来るだけ小さなトラブルの段階で食い止める、火消しを行うことが大切です。そのために当事務所は顧問弁護士プランをご用意しております。
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