外出レクで利用者が職員の食事代も出したら経済的虐待?

弊所の顧問弁護士としての対応ケースをご紹介します。顧問契約のご参考になれば幸いです(守秘義務の関係上、一部事案を改変しています)。

当事務所は介護・福祉分野のトラブル予防、トラブル対応に特化しております。当事務所の顧問先様から日々、事案の大小、緊急度など様々なご相談を頂戴しますが、トラブルだけではなく「不安」や「疑問」あるいは「質問」も日頃お問い合わせいただいております。「まだトラブルではないないけれど、こういう場合施設としてどう対処すると良いでしょうか?」とか「トラブルに発展する前にできることはありますか?」といったごお問い合わせですが、これは正直、弁護士にとって大変ありがたいご相談でもあります。トラブルは何でも、予防するに越したことはないからです。

顧問弁護士である当事務所の知見やアドバイスを活用して、日々の業務に活かしていただけることは嬉しく思います。

今回は、そのような普段の業務の中で発生する疑問を一つご紹介し、その対応策を解説します。

ご利用者Aさんが職員Bさんにあんみつをご馳走した

当事務所の顧問先の施設長様からご相談いただいた内容です。

ある施設のご利用者Aさん。外出レクでお店を職員のBさんと一緒に訪問した際に、Aさんが、「いつも良くしてくれるから、ご馳走したい」ということで、Bさんの分のあんみつの料金を支払ってくださりました。Bさんは古株の職員ですがAさんから評価されており、またその日はたまたま上機嫌だったそうです。

最初はお断りしようとしたものの「私だけじゃ食べづらいから」と懇願され、結局ご馳走いただいたとのことでした。もちろんBさんが「ご馳走してください」と申し出たわけではなく、完全にAさんのご厚意ということでした。

外出レクから戻ってきたAさんは「Bさんとお買い物に行けて楽しかった」と大満足でしたが、施設長としては「こうしたことがエスカレートしたら、経済的虐待と家族に言われたりしないかしら」との思いがよぎったとのことで、当事務所にアドバイスを求められました。

ご利用者の希望であれば原則問題は無いが見極めは必要

「虐待なんて、大げさな」と思われるかもしれません。ですが、虐待の概念というものはグレーゾーンが広く、「まさか、こんなことが」というケースが行政に虐待認定されるということが実は最近増えています。施設長のように、警戒アンテナを立てるに越したことはありません。

さて、このようなグレーなケースで虐待を検討するとき、必ず踏まなければならないステップがあります。それが「虐待防止法の定義を確認する」でした。

高齢者虐待防止法には、経済的虐待は「高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること」と定義されています。

これだけでは手掛かりにならないときは、厚労省の「高齢者虐待防止の基本」等のガイドラインを参照しましょう。そこには「本人の合意なしに、又は、判断能力の減退に乗じ、本人の金銭や財産を本人以外のために消費すること。あるいは、本人の生活に必要な金銭の使用や本人の希望する金銭の使用を理由なく制限すること。」とあり、合意の有無については「認知症などで金銭管理状況や使途について理解の上で同意する能力がない場合や、養護者または親族との関係性・従属性や従来の世帯の状況から、異議を言えず半ば強要されている場合等がありますので、慎重な判断が必要です。」と記されています。

これに照らすと、本件ではAさんは軽度の認知症があり、また気分に波があるということですから、その場で気前よく発言したことを真に受けることは危険であるといえそうです。

勿論、本件がそうであったように同伴する職員も一緒に食べなければ気まずいということもあるでしょうから、毎回四角四面に断るのも良くないとは思いますが、やはり特定の人間関係の中で、毎回何かしら奢るのが当たり前…という慣行が成立してしまうことは問題といえるでしょう。

今回の件は、Bさんが強要したわけではなく、飽くまでAさんの希望で行われたものですので、経済的虐待には該当しません。ただし、例えば別の日に再度AさんとBさんが出かけ、Bさんが「またあんみつ食べたいですね」等と言い、Aさんが「またご馳走するね」となった場合、そうしたことが繰り返された挙句ご家族が知ることになれば、「母は経済的に搾取されていた」と思われるリスクが高まります。1回限りで、低価格なものであれば見逃されるといえそうですが、B職員には経済的虐待と地続きであることを説明し、今度からご利用者に提案されても応じず、上司に報告し指示を仰ぐようにすること等を指導すると良いでしょう。施設全体のルールとして、「外出時に食事等をご馳走になってはならない」といったグランドルールを定め、全職員に周知徹底することも効果的です。

ネット検索しても答えが出てこない疑問にもお答えする顧問弁護士プランをご用意しております

当事務所は、介護福祉分野に特化した弁護士法人として全国の150を超える顧問先をご支援しております。トラブルでなくとも「これは大丈夫?」「こういう場合はどうしたら良い?」といった質問、確認、相談事でも承っております。不安や疑問を残したまま業務を行うには気持ちが悪いですし、万一それが一大事に発展したら大変です。出来るだけ細やかに対応できるよう、当事務所では顧問弁護士プランをご用意しております。

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また、本コラムはミニコラムとして、短い文章で事例をご紹介しております。もちろん守秘義務の関係で内容は改変しておりますが、お伝えしたいポイントはしっかりお伝えしております。

 

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