これは虐待に該当する?特養入所者の歯磨きが出来ない!?

弊所の顧問弁護士としての対応ケースをご紹介します。顧問契約のご参考になれば幸いです(守秘義務の関係上、一部事案を改変しています)。

当事務所は介護・福祉分野のトラブル予防、トラブル対応に特化しております。身体拘束や虐待は、介護施設においては重要テーマでありますが、「これは虐待なの?」という絶妙なグレーゾーンに関するご質問、ご相談をいただくことがよくあります。介護は人間相手の仕事なので、どうしても判断が難しい場面は出てきます。しかし、都度調査をしたり、確認をしたりして身体拘束や虐待に該当するかをじっくり検討する時間はありません。都度判断しなければならないからこそ不安が増してきたり、現場からのさまざまな声を受けた上長や責任者が不安を感じたりするのだろうと思います。

全てを避けることはできませんが、当事務所の別コラム(下記に掲載しております)では判断基準を解説しておりますし、本ミニコラムでは様々な事例ご紹介していきますので、知識として知っていただき、現場で活かしていただけましたら幸いです。

さて、今回は当事務所の顧問先の特養からご相談いただいた「これって虐待?」という判断が難しい事例について解説していきます。

施設入所者が歯磨き時に職員の指を噛む

当事務所の顧問先の特養からのご相談内容です。事務長からメールでご相談をいただきました。

内容は、職員がある入所者の歯磨きをしている時に、指を噛まれそうになることが頻繁に発生していました。噛む理由としては、歯磨きが嫌いであるという感情からだと考えられます。噛まれるとケガをする恐れもあるため、この職員は歯磨きを中断したそうです。そのようなことが続き、施設の中でもどうしようかと思案している最中だったそうですが、ある日久々にご利用者を訪ねてきたご家族が利用者の口の中を確認し「歯垢が大量に残っている。口腔ケアを適切にしていないのではないか」とクレームを寄せられました。この事実を知った事務長は「今はクレームの段階で収まっているが、もし虐待の中のネグレクトに該当すると言われたらどうなるのだろうか?」と不安に思ったそうです。

本件の論点は、ご利用者の歯磨きをしないことが「ネグレクトに該当するのか」ということ、および現実の対処法です。

これについて解説していきます。

危険だからと言って逃げてしまってはネグレクトに該当する

本件のように職員が、ご利用者の介護拒否や暴力に悩まされるケースは多々あります。

自らの身体の危険性を感じて介助を中断するという行為自体は、職員にも当然人権はありますから基本的に問題ありません。しかし、その結果ご利用者の歯が虫歯だらけになったり、誤嚥性肺炎に至るようなことがあれば介護、世話の放棄(ネグレクト)に該当する可能性が出てきます。

ここにネグレクトとは、虐待防止法上「高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること」と定義されます。ネグレクトは「利用者を放置する」という状態が評価されるので、一瞬の暴力行為等で成立する身体的虐待等と異なり、継続的な観察により判断されることになります。

つまり、何か一回だけの行為や不作為(必要なことをしないこと、怠けること)だけでネグレクトの成否が決まるものではなく、利用者に何らかの被害が生じたとして、そこに至るまでのプロセスについて「本来施設としてすべきことをしていたといえるか」が評価されることになります。

本件では、施設がこの利用者について歯科医を交えてカンファレンスを行い、「口腔ケアをしようとしても拒否される」という課題について代替措置を講じる等、解決に向けて取り組んでいたのであればネグレクトとは認定されないでしょう。一方で、「あの利用者は危ないから」といった理由で支援を諦め、会議もなにもせず放置した結果口腔内が不衛生になってしまった…ということであれば、施設としてすべきことをしなかったといえネグレクト認定される可能性が高くなります。

このように、利用者ケアの障壁があるからといって早々に諦めず、チームで解決に向け粘り強く取り組むことが重要となります。本件では、対策を案じていたとのことですが、その悩んだ経緯ごと詳細に記録していく意識が重要となります(何月何日に会議をしたが、有効な策は出なかった、等)

なお、このように介護拒否や危害を加えるような利用者への対策もお伝えしておきましょう。

例えば施設内で、「このご利用者は口腔ケアの時に職員の指を噛むことがある」といった実際に見られるヒヤリハットやリスクを書き出し、利用者ごとにリスト化し、施設内で共有すると良いでしょう。情報を集めて共有し、職員が事前に把握していれば心の準備ができ危険回避に役立てられますし、職員同士で回避策を考えることも容易になります。

不安や疑問を解消して業務を行うためのご提案

本件はなかなか微妙なところですし、歯磨きという毎日必要なことに関してなので、悩ましいケースだと思います。他の業務もあるはずですので、こればかりに時間をとられていては業務効率も悪くなるでしょう。そのようなとき、「弁護士にこんなこと聞いてもいいのかな?」と躊躇せず、気軽に当事務所にお尋ね頂ければと思います。当事務所は、現場の皆様を一番近い所からサポートしていきたいと願っているからです。

当事務所は、介護福祉分野に特化した弁護士法人として全国の150を超える顧問先をご支援しております。トラブルでなくとも「これは大丈夫?」「こういう場合はどうしたら良い?」といった質問、確認、相談事でも承っております。今回のように「これって虐待?」「これは違法じゃない?」と不安や疑問を残したまま業務を行うには気持ちが悪いですし、万一それが一大事に発展したら大変です。

出来るだけ細やかに対応できるよう、当事務所では顧問弁護士プランをご用意しております。

顧問弁護士に関するご紹介ページもございますので、ぜひご覧ください。まだ顧問弁護士契約をされていない方で顧問契約を真剣にご検討頂いている方には20分無料のオンライン面談もご提供しておりますので、お気軽にお問合せください。

また、本コラムはミニコラムとして、短い文章で事例をご紹介しております。もちろん守秘義務の関係で内容は改変しておりますが、お伝えしたいポイントはしっかりお伝えしております。

 

当事務所ではミニコラム以外にもコラムを発信しております。こちらでは出来るだけ詳しく介護福祉において重要なテーマについての分かりやすい解説、対策法、考え方、事例などをお伝えしています。以下よりお進み頂きぜひご確認ください。