弊所の顧問弁護士としての対応ケースをご紹介します。顧問契約のご参考になれば幸いです(守秘義務の関係上、一部事案を改変しています)。
当事務所は介護・福祉分野のトラブル予防・対応に特化しており、日頃顧問先様から様々なご相談をいただきます。介護福祉と医療は密接に関連しており、今回は医療分野の事例です。
日々業務を行っていると、必ずと言って良いほど「この判断は問題無いだろうか?」と不安や疑問に思うシーンが発生することと思います。そんな時にインターネットで検索しても、実務で出くわすような細かな事象について言及する情報はなかなか見つからないでしょう。ネットが便利になりましたが、やはり現場は生もので、現場の状況や過程を考慮して判断せざるを得ません。そんな時に弁護士は素早く、そして的確にアドバイスできる存在であると言えます。様々な「生きた事例」を把握し蓄積しているため、単なる意見ではなく「この考え方、方針で問題ないか」を的確にアドバイスできるのです。
今回は、弁護士のこの強みを活かし、とある医療法人で発生した「この判断は問題無い?」というご相談に対応した事例をご紹介します。
ルールの抜け穴をくぐり割り込みする患者様
その医療法人の運営する病院では、事前予約優先で診察をしていました。予約が無くても診察できますが、予約患者様が優先されるので待ち時間が長くなります。予約はインターネットで取れる仕組みでした。
Aさんは、小学生のお子さんを診察させる目的で通院していました。Aさんはいつも受診日の2、3日前に15:00や15:15の予約を入れます。しかし、14:50分ごろに電話をかけてきて「すみません、仕事で急用ができたので予約時間に間に合いません。16:15頃に到着できます。」と申し出て、その時間にやってきます。病院側は何とか他の患者の診察を終わらせ調整して、Aさんを16:15頃に診察しました。
Aさんは月1回程度の受診ですが、毎回このような方法で無理やり16時台に受診をしています。このAさんの行動のせいで院長、看護師、事務職員全員がイレギュラーな対応をせねばならず、予約患者の時間を少しずらさねばならないこともあり困っていました。
Aさんが予約を入れる日の2、3日前には、16:00台の予約枠は通常他の予約者で埋まっていました。ところがAさんは毎回「仕事で急用があった」や「工事で車が混んでいる」という理由をつけて遅刻し、結果的に希望時間帯で受診をします。お子さんが小学生で、学校終わりに受診しようとすると16時台が良いところ、予約時は既に枠が埋まっているため、このような方法で割り込んでいるといえるでしょう。
マナー違反の患者対策?
院長は、このAさんの行動を真似して希望時間帯の診察に「割り込み」をする患者様が増えることを危惧していました。このようなずるい行為を黙認すると、ルールに従って予約した患者様に迷惑がかかり、病院の評判も悪くなります。そのため病院側は「これ以上マナー違反が続くならAさんを出入り禁止にしよう」と考えましたが、「応召義務違反にならないだろうか?」という疑問を抱き、当事務所へご相談がありました。
ズルできないルールの整備からスタート
今回のご相談への当事務所の回答は「予約のルールを整備し、患者様に周知する」というものでした。応召義務とは「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」とする医師法19条1項所定の義務をいいますが、厚生労働省は診療の求めを拒否できる場合として「患者について緊急対応が必要か否か」、および診療の基礎となる信頼関係が喪失しているか」を判断のポイントとしています(令和元年12月25日「応召義務をはじめとした診療治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」)。要するに、緊急対応が必要な命に関わる状況であればクレーマー等を理由として拒むことは許されませんが、それ以外であればケースバイケースで判断できるということです。
本件では、Aさんのお子さんの定期受診なので緊急でないことは明らかです。では、どのように患者側との信頼関係の程度をはかるべきでしょうか。
その方法は、「言葉のキャッチボール」、コミュニケーションです。カスハラ対策のシリーズコラムで何度かお伝えしていますが、こちらから要望や見解等のボールを投げかけ、それに対し相手がどう反応するかで信頼関係の度合いが分かります。
この病院ではこれまで特段予約に関するルールを明記していなかったのですが、ホームページの予約フォームに「注意事項」を表示し、「予約時間に来院すること」「予約時間を〇分以上遅れた場合は後回しにする」というルールを追加、表記しました。これに「同意する」というチェックを入れなければ予約できない仕組みとし、院内にも同様の掲示を貼り出しました。
ここまで実施すれば、自ずとAさんはアナウンスを把握し理解できる状態になります。念のため窓口でも「予約ルールが変わりました」と直接お伝えしましたが、Aさんは大人しく受け入れてくれたようで、今は同種の問題は起きなくなりました。
もしAさんが「自分は関係ない」等と自己中心的な主張、振る舞いをするようであれば、ボールを適切に投げ返してくれなかったということで信頼関係は失われた可能性が高いといえるでしょう。その場合は改めて書面にてお願いし、それでもダメな場合は最終手段として診察を拒否することも考えられます。
マナー違反の起きない環境整備を
今回のAさんのようにルーズな人は、残念ながら一定数いるようです。医療や介護・福祉に携わる方々は、心根に奉仕の精神があり、患者様やご利用者の要望に出来る限り対応しようとします。これは素晴らしい精神なのですが、それに過度に甘える方がいるのも事実です。
そのような場合、いきなり「出入り禁止」を突き付けるのは躊躇しますし、問題が悪化するリスクがあります。「なぜこんな当たり前のことが分からないのか?皆きちんと順番を守っているのに」と憤る気持ちはごもっともですが、想定外の行動をとる人がいるからこそルール整備が必要といえます。
ルールを整備し対外的に明示しない以上「ルール違反」を指摘することはできず個別対応になってしまうので、他の患者様からのクレームも出てきてしまうでしょう。どんな時も想定外の行為をする人がいるという想定の下、シンプルかつ効果的な仕組みを作ることが肝心です。
ただ、その際に「法的に問題が無いのか?」「考えられるリスクは何か?」といった疑問や不安が出てくると思いますが、そういった場合は弁護士の出番です。適切なルール作り、考えられるリスクの洗い出し、リスクヘッジ策をアドバイスすることができます。患者様、ご利用者に迷惑がかからない、職員が安心して働ける環境づくりのお手伝いができます。
当事務所は、介護福祉分野に特化した弁護士法人として全国の150を超える顧問先をご支援しており、様々なトラブル対応の実績がございます。出来るだけ細やかに対応できるよう、当事務所では顧問弁護士プランをご用意しております。顧問弁護士に関するご紹介ページもございますので、ぜひご覧ください。まだ顧問弁護士契約をされていない方で顧問契約を真剣にご検討頂いている方には20分無料のオンライン面談もご提供しておりますので、お気軽にお問合せください。
また、本コラムはミニコラムとして、短い文章で事例をご紹介しております。もちろん守秘義務の関係で内容は改変しておりますが、お伝えしたいポイントはしっかりお伝えしております。
当事務所ではミニコラム以外にもコラムを発信しております。こちらでは出来るだけ詳しく介護福祉において重要なテーマについての分かりやすい解説、対策法、考え方、事例などをお伝えしています。以下よりお進み頂きぜひご確認ください。