弊所の顧問弁護士としての対応ケースをご紹介します。顧問契約のご参考になれば幸いです(守秘義務の関係上、一部事案を改変しています)。
ご利用者やそのご家族によるカスハラ(カスタマーハラスメント)は、介護・福祉業界で以前から問題視されていました。しかし、カスハラは元々「お客様とサービス提供者」という関係上、いざ被害を受けてもなかなか相手に対して強く出られないという問題をはらんでいます。この関係性に捉われてしまい、被害者は声をあげづらく、仮に上司へ相談されたとしても有耶無耶にされる場合もあるでしょう。
しかし昨今は介護・福祉現場での人材不足が極めて深刻であり、今いる職員の離職・休職の防止、モチベーション低下抑制のために、カスハラ対策は必須となりつつあります。
弊所でも、顧問先様から日々さまざまなカスハラ事案のご相談を受けております。今回は数多ある事件の中でもかなり手ごわいケースにおいて、現場職員への攻撃を水際で食い止めるために施設が採ることができる「秘策」をご紹介します。
カスハラは職員の退職動機に
日々介護・福祉事業所の経営者、現場責任者の方々と接する中で、こんなことを耳にします。
「カスハラが怖いので若手職員が辞めたいと言ってきた」
「カスハラ対応が機能せず、職員のモチベーションが落ちてきている」
「カスハラが原因で鬱症状が出た職員がいる」
このように、カスハラが職員の労働意欲を損ねたり、最悪の場合休職や退職にまで至っているという現実があります。
言わずもがな、職員減は現場に甚大な影響を及ぼします。残った職員がその影響を受けてさらに疲弊するという悪循環が生まれかねません。
カスハラが退職動機になる時代です。どうせ働くならば、少しでも労働環境の良いところを選びたいはずです。今の介護・福祉業界は超売り手市場で引く手数多です。働き手は流動的になりやすい時代、カスハラは退職動機につながることを理解しつつ、対策に乗り出さないと大変なことになるでしょう。
〈ケーススタディ〉
「もう耐えられません、何とかしてください!」現場は崩壊寸前…
カスハラ対策についてリアルに感じて頂くため、当事務所が対応した事例をアレンジしたケースを基に、その対策を解説します。
とある介護施設でのことです。入所者のAさん(74歳男性、要介護度4。認知症は無い)の度重なるカスハラにより、関わる担当職員全員が被害に遭っていました。
Aさんはいわゆる江戸っ子で、言葉遣いが乱暴で癇に障ることがあるとすぐ大声を出す人でした。相手を責めるときも葉に衣着せぬ物言いです。障害独り身とのことで普段から面会に来る家族はおらず、その寂しさもあってか、介護に携わる職員への要求やミスの指摘がとても厳しい方で、それがカスハラにつながっていました。
例えば次のようなカスハラが発生していました。
●職員に対して「おめぇ、大学まで出たくせにぼんくらだな。こんな会社に従っていくなんて、本当に馬鹿だ」と言う。
●「ここの看護師は本当に無能だ。こういうのを給料泥棒っていうんだ」と暴言を吐く
●気に入らないことがあると孫の手やマジックハンドを手に取り、周囲のものを叩き威嚇する。孫の手で職員を指し命令する。
●カスハラが発生するたびに職員や責任者から注意をしても「そんな証拠あんのか」「いつ俺がそんなこと言った?」「そこまで言うなら責任とる覚悟はあんだろうな」等と開き直り相手を脅す。
このような状況がほぼ毎日、職員が介助のため入室するたびに発生し、職員交代をしても二人対応としても焼け石に水でした。
そして、とうとう現場職員達の我慢も限界に達しました。
「Aさんの介護はもうやりたくありません!担当を続けろと言うなら、私は辞めます!」
と、2,3名の職員が泣きながら訴えたのです。これを機に堰を切ったように「私もAさんの介護は嫌だ」という職員が立て続けに発生し、施設責任者はもちろん経営者までもが困り果てる状況となりました。
しかしそうこうしている内にも当のAさんはどこ吹く風。手加減なくコールを押し続け、少しでも遅れるとまた職員を罵倒します。
このような状況になった場合、あなたの施設ではどのように対応しますか?
基本はイエローカード、のち解除
これまで何度かカスハラ対策についてはこのコラムシリーズで解説してきましたが、本件でもやることは同じです。
まずAさんに対しカスハラを止めるよう求める書面を作成し、直接読み上げお渡しします。これに従わない場合はレッドカード、契約解除に進みます。その間、現場やAさんとのやり取りなどは秘密録音し証拠化しておきましょう。それ以外にも、これまでされたことや言われたことは全て詳細に記録しておくことが肝要です。
しかしそれでもうまく行かない場合はあります。それが本件であり、事業形態が入所型の施設である場合です。
Aさんに対してカスハラを止めるよう警告したところ、Aさんは「そんなに俺のことを悪く言うなら、虫が好かねぇからこっちから出て行ってやる」と啖呵を切り退去するとの意向を示しました。ところがAさんは元々貯金もそれほどなく、転居先が一向に見つかりません。一方で現場では、今日も変わらずカスハラが起きています… 経営者としては何とか、一刻も早く現場職員をカスハラ被害から守る必要があります。
応急処置的なこの一手
このケースのように契約解除による速やかな利用者側との縁切りができない場合、応急処置的な対応として「次にカスハラをしたときは、その場で介助を中止する」と宣言するという方法があります。次のような文面です。
できればその書面に同意の署名を得られると良いですが、非協力的な相手方であれば望めないことが多いでしょう。そんなときはこちらからの一方的な宣言通知だけでも意味があります。
カスハラ事案では、「もうカスハラはやりません」という念書を施設側で作成し、これを相手に示しサインを求めることが一般的ですが、本件のように悪質なカスハラが高頻度で起きている場合は、ともかくも現場の被害を食い止めなければなりません。
しかし、一方で「利用者への支援を止めてしまうと生活ができなくなり利用者が著しい不利益を被る…」そう考え、つい毅然とNoを突き付けることをためらい結局現場職員が泣く泣く介助を続けるということになりがちです。
発生したカスハラに対して指摘、注意、警告は行ったうえで、それでも改善されない場合にとる措置としてお考えください。
この方法を実施すれば、カスハラが再び発生した際に職員はすぐにその場から離れることが出来ます。念書が印籠となり、躊躇なくサービス提供中止ができ、職員も精神的に実行しやすくなります。念書があるため、たとえ文句を言われても約束したことですから後ろめたさを感じる必要はありません。
この方法は一参考事例ですが、これをそのまま活用しても構いませんし、応用して頂くこともできます。利用法が分からない場合はお気軽に当事務所までお尋ねください。
このように、施設・事業所が職員を守ろうとする姿勢を見せることで、職員の働く意欲、事業所への信頼を維持することができるでしょう。
こちらの文面が記載されたカスハラ対策用の正式な宣言通知は、1部5000円(税込)で、Wordデータで販売しております。ご購入後、自社でアレンジして作成可能です。ご購入希望の方は、以下のボタンよりお進みいただき、必要事項をご記入のうえご連絡ください。
リンク先は「お問合せページ」
なお、当事務所では、介護・福祉事業所の日常業務で使用する様々な書式をまとめ、ダウンロードして利用できる専用サービスサイトをご用意しております。書式をダウンロードして使用することで業務効率化が図れますし、「これで大丈夫かな」という不安が無くなります。月額11000円(税込)でご利用いただけますが、顧問先様は無償でご利用いただけます。ご購入希望の方は、以下のボタンよりお進みいただきサービス内容をご覧いただけます。
リンク先は(https://kaigo.okagesama.jp/p/register-archive-site)
ネグレクトにならないよう細心の注意を
この通知を渡した以後は、たとえば利用者が暴言を吐いた瞬間に移乗や食事介助等を職員の判断で中止し、その場を離脱するということが可能となります。ただし、これは飽くまで程度問題でありあらゆる場面で離脱を徹底することはコンプライアンス違反となるおそれがあるため注意が必要です。
高齢者虐待防止法は「高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること」を虐待(ネグレクト)と定め、たとえカスハラが理由であっても第三者からは「職務上の義務を著しく怠」った、と評価される場合があります。
さりとて職員に対する安全配慮義務を果たすことも同じく重要であるところ、判断が悩ましい場面も多いかと思いますが、利用者の生命身体の維持に必要な対応までカスハラを理由に拒むといった極端な対応は慎むべきと考えます。いずれにせよこの措置は応急処置的な位置づけになるため、導入の際は一度ご相談頂くことをお勧めします。
法的に問題ないトラブル対抗策考案は弁護士の出番
大切な職員を守ることは喫緊の課題ですが、万一違法と評される対策を実施するとコンプライアンスの問題が発生し、場合によってはペナルティを受けることもあります。
法的に問題ない方法で、効果的なトラブル対抗策を実施するには、弁護士の力をぜひご活用ください。
当事務所は開設以来、介護・福祉分野に特化しており、様々なトラブル対応の実績がございます。出来るだけ細やかに対応できるよう、当事務所では顧問弁護士プランをご用意しております。顧問弁護士に関するご紹介ページもございますので、ぜひご覧ください。まだ顧問弁護士契約をされていない方で顧問契約を真剣にご検討頂いている方には20分無料のオンライン面談もご提供しておりますので、お気軽にお問合せください。
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