感情的なカスタマーハラスメントへの丁寧な対処事例

当事務所がご相談を受けトラブル対処した介護・福祉事業所の事例をご紹介します。

カスタマーハラスメントこそ丁寧に扱う

比較的小規模な訪問入浴事業者と、そのご利用者のご家族(息子さん)との間で発生したトラブルです。
そのお宅では、訪問者に対する指示や「べからず集」が多く、「ドアを開けるときは2回ノックしなければならない」「上着を脱ぐときは必ず外で脱いでから入室すること」といったルールが、出入りするヘルパーやスタッフに対して課されていました。
ある日、訪問入浴のスタッフが訪問した際、うっかり屋外用のスリッパで玄関まで入ってしまうということがありました。それに対し息子さんは激高し、その場で怒鳴られたスタッフは震え上がり気分が悪くなってしまいました。他にも「浴槽に張ったお湯の温度が高すぎる。母が火傷したらどうしてくれるんだ!」というご指摘も受けました。
しかし、よくよく当該スタッフから話を聞いてみると、スリッパに関しては片足が一瞬玄関マットに触れるといった事故のようなものでした。お湯の温度も、事業所の方であらかじめ計測し、冬なので多少高めに設定するということでご利用者ご本人には説明し了承を得ていました。それをたまたま息子さんが聞いていないという状況だったのですが、ミスと言っても単なる報告漏れであり、ご利用者の身体に危険が及ぶということはありません。
このようなことまで執拗かつ苛烈に責任追及することは、いわゆるカスハラ(カスタマーハラスメント)といえるでしょう。
事業所の担当者である管理者は、その後もひっきりなしにかかってくる息子さんからのクレームの電話対応に疲労困憊しており、現場でも今後サービス提供が継続できなくなるということで、たまらず当事務所にご相談がありました。
典型的なカスハラ事案ですが、通常の法律事務所であれば、相談者=事業所側の説明をベースとして、相手方であるご家族にいきなり「カスハラを止めるように」といった内容証明による警告文か、或いは契約を解除する通知を送ってしまうことが考えられます。
しかし、それではご家族側の思いは完全に無視されることになり、禍根を残してしまいます。後日「解除は無効である」との裁判を起こされたり、ブログにさんざん事業所の悪口を書かれたりと、紛争が深刻化することが懸念されるのです。保険者や国保連にも苦情がいき、行政監督官からもあらぬ疑いをかけられることもあります。

当事務所「弁護士法人おかげさま」は、「感情的なカスタマーハラスメントこそ丁寧に扱う」ことをポリシーとしています。感情に任せ、ヘルパーに怒鳴ったり苦情を繰り返すような利用者・家族は、一見「取り付く島もない」真性のクレーマーのように見えるかもしれません。ですが、そこを踏まえた上でじっくりお話を傾聴し、相手の心の奥底を理解しようとすることで「自分の置かれている状況や辛さを分かってもらえた」と感じて頂け、融和できる可能性が十分あるのです。
そうはいっても、弁護士から代理人としていきなり手紙を送ることになるため警戒されてしまうことは避けられません。事案にもよりますが、硬軟織り交ぜて表現や言い回しにも注意しながら、面会を求める手紙を当事務所からお送りします。

数日後、実際に当事務所の弁護士が、管理者と一緒にご利用者宅を訪問する機会が設定されました。
挨拶もそこそこに、息子さんが日頃溜まっている思いをまくしたてました。大方は事業所に対する不満や恨み節でしたが、意外なことに息子さんから事業所に対する感謝の言葉や、「今、そちらに撤退されたら母の面倒をみてくれる事業所がいなくなる」といった不安、恐怖の声も聞かれました。予想したように、息子さんは第三者的立場にある誰かに自分の思いを伝え、共感してほしいという思いが強かったのではないかと思います。
男一人で年老いた母と向き合うしんどさ、介護の苦労、ストレスのお話も出たので、じっくり傾聴しました。
当事務所が第三者として冷静にお話をうかがったことで、息子さんの気持ちは少し晴れたようで、そのご利用者と事業所の間の契約は合意解約となりました。他の事業所を探し、そちらに依頼先を変えることができたということで、契約終了となったのです。息子さん自身は「事業所が悪い」というスタンスを崩しませんでしたが、やはりトラブルを起こした事業所と継続的に関係を持つことに引け目を感じられたのだと思います。
双方しこりを残すことなく、トラブルから解放されることとなりました。

そして最終的には、「話を聴いてくれてありがとう。もし事業所側として出会っていなければ、こちらから頼んでいたことでしょう。」と感謝されました。本件の依頼人は飽くまで事業所なのですが、稀にこのように相手方から御礼を言われることもあります。そういうときは弁護士冥利に尽きると感じます。

当事務所の方針として、丁寧に関係者の話を聴き、情報を取得するということを大事にしています。弁護士というとどうしても「勝ち負け」の世界を想像する方が多くいらっしゃいますが、介護・福祉の世界は「お互い様」「おかげさま」の精神で成り立っています。現実に、一つのトラブルで勝っても負けても、その後のご利用者の生活、事業所との地域全体を含めた関係性は続いていくものです。そのような長期的視点を持って、お互いができるだけ嫌な思いをせずに済むような解決に導くよう留意しています。

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