介護福祉ニュース・虐待報道 から考える背景と教訓

弊所の顧問弁護士としての対応ケースをご紹介します。顧問契約のご参考になれば幸いです(守秘義務の関係上、一部事案を改変しています)。

当事務所は介護・福祉分野のトラブル予防、対応に特化しております。日頃流れてくるニュースの中で、介護福祉に関するニュースは優先的にチェックしています。

最近は特に、良いニュースよりも悪いニュース、悲しいニュースが多いように感じます。

ご利用者の虐待に関する痛ましい事件は、家庭内だけでなく施設内、特に夜勤者による突発的な暴行事件が典型的ですが、中にはどう考えても施設全体が虐待防止に対する意識が足りず、現場職員全員の感覚が麻痺した末に起きた組織的犯行といってもいい事件も起きています。

近年は国も虐待防止に関するルールを義務化し悲惨な事件が起こらないよう取り組んでいますが、人材不足に悩まされる現場では、どうしても教育が追い付かず、或いは仕事量が一人に集中する等の理由で心の余裕が無くなり、虐待に走ってしまうということがあるのかもしれません。

しかし、他に頼るところのないご利用者や家族を、日々介護福祉の最前線となっている施設事業所は何があろうと強い責任感と意思を持ち守っていかなければなりません。今回は、令和6年5月に報道された、茨城県東海村の指定障害者支援施設第二幸の実園」で発生した入所者への虐待事件を元に、組織的虐待事件の背景に隠れている課題について解説します。

虐待を繰り返したのに事業停止3か月!?

この事件は、指定障害者支援施設で働く施設長と職員が入所者に対して何度も暴行したり、金銭を一方的に徴収する、承諾を得ないまま農作業に従事させる、暴行によって怪我をした入所者を病院へ連れて行かないなどの虐待行為を繰り返していたということでした。施設責任者である施設長までもが加わって、職員と一緒に暴行を加えるわけですから、事実であれば悪質極まりないといえます。

しかも報道によれば、2020年ごろからこうした利用者への虐待行為を指摘する声が内部で上がっており、行政が何度か調査指導を繰り返したにも拘わらず改善されなかったという経緯があるとのことです。組織的にあまりにも酷いことを実施していたと考えて差支えないでしょう。

この実態を把握した茨城県は、5月17日、重度知的障害者ら49人が入所する障害者支援施設と、中軽度の知的障害者ら4人が入所するグループホームに対し、3カ月間の指定効力の全部停止処分という処分を実施しました。これは事業停止命令に等しく、「指定取り消し」の次に厳しい処分です。しかし、ここで一つ疑問が抱く方もいらっしゃるのではないでしょうか。

「これだけ組織的に悪質なことをして、指定取り消しではなく3カ月間の事業停止だけで済むのか」と思った方もいらっしゃると思います。そう思っても不思議ではありません。

事件概要と処分の内容

しかし、仮に突然「指定取り消し」処分となった場合、この施設に入所している方は別のところへ移らなくてはいけなくなります。生活環境が変わると入所者本人も大変ですし、ご家族も大変です。移す手続きをする行政、職員にも大きな負担がのしかかります。再発防止の観点からは最も重い「指定取り消し」が望ましいかもしれませんが、現実問題を考えると事業停止にするほかなかったといえるのかもしれません。

このように、一見厳格に運用されるようにみえる行政処分も、現実には多数の関係者の生活、生命、健康が懸かっていますので、教科書通りの処分をくだせない事情もあります。現に、県が障害者支援施設に対して事業停止処分を行うこと自体初めてということです。

突然指定取り消しにすると起こること4つ

虐待は組織の体質によって起こる

今回のような組織的かつ継続的な虐待は、施設事業所の体質が、突き詰めればトップの自覚と危機意識の欠如が根本的な要因として存在しています。しかし、悪いのは施設だけでなく、実は利用者の家族も虐待を止められず間接的に隠蔽に加担しているという可能性もあると考えます。

筆者は、利用者家族や施設関係者から「仮に虐待や不祥事が続いたとしても、家族としては利用者が他に行く先もないので、背に腹はかえられず存続を望むことが多い」と聞いたことがあります。それが事実であるとすれば、大規模で根の深い虐待ほど、「臭いものに蓋」とばかりに見て見ぬふりをされ、行政も踏み込めないという最悪の事態に陥る可能性がどの施設にもある、といえるのではないでしょうか。

特に筆者のこれまでの経験則では、老舗の社会福祉法人でこの傾向が多いように感じています。

施設が無くなれば入所者やご家族が困るので「指定取り消しなんて絶対にならない」と慢心し、ご家族となれ合いの関係になっていたり、危機意識が無く「知らなかった」「気づけなかった」という言い訳をしがちですが、それはもはや「経営判断をしていない」というレベルのことと言えるでしょう。このようなことになると、いずれ本件のように行政のメスが入り、社会福祉法人そのものが解散を命じられるということになります。

虐待は組織の体質によって起こる当事務所は、介護福祉分野に特化した弁護士法人として全国に150を超える顧問先をご支援しております。介護福祉分野でのトラブル対応事例が豊富にあり、虐待を未然に防ぐ研修実績、虐待再発防止の体制構築のご支援の実績もございます。

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